keep learning blog(キープラーニングブログ)

自分が興味を持ったことを備忘録として残すブログです。

19.北欧の冬について紹介します

――もっと光を!――

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

 

 

12月になりました

久しぶりの更新です。このところ、日本から友人が泊まりに来たり、(大学ではなく会社の)仕事の関係でオランダに行ったりしていたので、ちょっと更新する余裕がありませんでした。教授にお願いして研究の方もお休みしており、年末に向けてゆったりVacation気分になっています。

というわけで研究の方も進展はなく、これといってブログに書くことがないため、今回は雑談寄りの話題で更新したいと思います。

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クリスマスの捉え方

12月になり、クリスマスシーズンが近づいてきました。日本では忘年会などのイベントもぽつぽつ始まっている頃でしょうか。

欧州に忘年会という文化はありませんが、クリスマスシーズンは煌びやかなイルミネーションが街を飾り、とても明るくて楽しい雰囲気に包まれます。欧州(特にゲルマン系)にはクリスマスマーケットという文化があり、この季節になるとそこかしこで出店が出ていて、なんだかお祭り気分です。

さて、日本はキリシタンの国ではないので、クリスマスを楽しいイベントとして輸入しただけで、イエスの生誕を祝うという本来の意義は表に出てきません。しかし、北欧に住んでみて、意外とこの軟派な楽しみ方は少数派ではないと気付きました。

というのも、北欧の人たちと話していると、彼らも日本人と同じく、イエスの生誕を祝うという本来の意義をそれほど意識しているわけではなく、なんとなく「この季節の変わり目を楽しもうよ」というスタンスを取っていると知ったからです。

理由の1つとしては、北欧がカトリックではなくプロテスタントの国だからでしょう。プロテスタンティズムというのはおおまかにThe others(カトリック以外全部)の中世キリスト信仰を指すので一概にプロテスタントと括ることはできませんが、彼らに敬虔なカトリック信者に見られるようなイエスへの絶対的帰依はあまり感じられません。

このように、キリスト教徒の中でもこれだけ捉え方に違いがあるクリスマス。調べ物が大好きな私としては、この起源を探ってみたいと思わずにはいられません。

 

クリスマスの起源(古代ローマ

カトリックと北欧プロテスタントを対比するような言い方をしておきながら、今はカトリックの総本山に位置するイタリアでも、古代ローマ時代の人々は、太陽神ミトラスを信仰対象とするミトラス教(Mithraism)を信仰していたそうです。

ミトラス教は、ヘレニズム時代に古代ローマ小アジアを征服したことをきっかけに、イランで信仰されていた太陽信仰がローマに伝わって興った宗教で、当時のローマでは非常に人気があったそうです。

ミトラス教では、太陽神ミトラスが冬至の日に死を迎え、翌日に復活すると信じられています。つまり、イエスが生まれる前から、この季節には(イエスとは異なる)神の生誕を祝う習慣があり、それは最も日が短くなる冬至を起源としていたのです。

もしかしたら、元からあったこの冬至を祝う慣習に、キリスト教徒がイエスの生誕という新たな定義付けをしたのがクリスマスの興りなのかもしれません。そもそも、イエスが生まれた日が12月25日である根拠は聖書にも明確な記述がありません。日本人からすると、12月25日は太陽神の生誕(冬至)を祝っていると解釈した方が腑に落ちる気もします。

 

クリスマスの起源(ヴァイキング

以前の記事で、デンマークやスカンディナビア半島諸国の祖先は北部ゲルマン人(ノルマン人)に起源を持つとご紹介しました。彼らはヴァイキングと呼ばれ、船団で海沿いの街を襲う恐ろしく勇猛果敢な民族でした。

実は、ミトラス教と同じように、ヴァイキングにも12月後半の季節を祝うユール(Yule)と呼ばれる慣習があったそうです(こちらで友達になったデンマーク人のおばあさんに教えてもらいました)。

www.vikingslots.com

ユールの詳細は上述のWebページで解説されています。これによると、古代ヴァイキングのユールには現代のクリスマスと符合する点がいくつもあるそうです。例えば、ユールは12月21日から始まって12日間続きます。これはクリスマスの時期とぴったり重なります。

他にも、ヴァイキングにとって冬でも枯れない常緑樹は生命の象徴だったため、ユールの季節になると、小さな彫刻や装飾品で常緑樹を飾り付ける習慣があったそうです。これはまさに現代のクリスマスツリーそのものです。

また、ユール期間中には、ヒイラギの木を使って輪を作り、クリスマスリースのようなものを飾る習慣もあったそうです。輪を作るのは、夏が冬に、冬が夏になるという季節の巡りを表しており、冬至を祝うという点で発想がミトラス教に似ています。

欧州の南端(古代ローマ人)と北端(ヴァイキング)とで独立に冬至を祝う慣習が存在していて、それが現代のクリスマスあれこれに繋がっていると考えると、とても面白いですね。また、こうした慣習からは、古代の人々にとって太陽や季節の巡りがいかに重要だったのかを窺い知ることができます。

そして、この太陽と季節の巡りが現代人である私たちにも大変重要であったことを、私は身をもって知ることになります。

 

睡眠障害の発生

異変が起きたのは11月中頃でした。ある日、私は夜に寝つきが悪かったり、それが原因で昼間にぼうっとする日が続くことに気が付きました。

生まれてこの方、寝つきの良さには定評のあった私*1。夜に眠れなかったことなど、センター試験の前日以外にはほとんどありません。そんな睡眠優良児の私がなぜ眠ることができないのかよく分からず、その原因不明の不眠症にしばらく悩まされていました。

そして私はついに、どうやらその原因がデンマークの冬にあることを突き止めたのです。研究に没頭していてあまり意識していなかったのですが、私の住むデンマークのオールボーは、霧の町ロンドンも顔負けの年中雨が降っている街で、一年の半分近くが曇りです。特に10月後半になってからは太陽の光を拝める日の方が珍しいくらいでした。

以下のリンクで都市別の日照時間を確認することができます。左上のSunという検索ボックスに「Aalborg」と打ち込んで検索したところ、本日の結果は「Daylight 08:42 – 15:40 (6 hours, 58 minutes)」とのことです。な、7時間切っとる・・・

www.timeanddate.com

日本のカリフォルニア(仮称)である千葉南端で生まれ育った私にとって、この陰鬱とした寒々しい気候はかなり衝撃的な環境変化だったようで、睡眠障害という形で私の身体を蝕んでいたのです。「太陽神ミトラスよ、主は我を見放したか!」と曇り空に向かって叫びたい気分です。

 

光の視覚的・非視覚的作用

例えば、大豆は日陰に置いておくと美味しいもやしになります。日の光を浴びることで植物は光合成を行い、その組成を変化させるのです。それでは、人間は日の光を浴びることでどんな影響を受けるのでしょうか。

現代の私たちは毎日さまざまな種類の光に取り囲まれています。太陽光のような自然光だけでなく、白熱電球、蛍光灯、日本人がノーベル物理学賞を受賞した(青色)LED、これらの人口光も光の一種です。

眼球に入ってきた光はまず網膜の杆体錐体細胞電気信号に変換され、視神経を通って後頭葉の視覚野に向かいます。この信号が私たちに視覚を与え、私たちは目で外界の様子を把握することができます。他方、視神経を通った信号は後頭葉以外の様々な部位に作用し、自律神経機能や気分の調節にも影響を与えます。

私たちの身の回りにある光は、単に物を見るためだけのものではなく、人間の自律神経や気分にも多大な影響力を持っているのです。太陽神のご機嫌次第で身体のリズムすら簡単に乱されてしまう、人間はそんなかよわい存在だからこそ、クリスマスを祝うのですね。

 

日照不足による弊害

では具体的に、太陽光を浴びない生活が続くと、私たちはどうなってしまうのでしょうか。日陰で大豆がもやしになってしまうように、私たちの身体にも大きく分けて以下の2つの問題が発生します。

 

(1)ビタミンD不足

私が小学生のときに愛読していた科学図鑑には、「日光を浴びると肌でビタミンDが生成され、ビタミンDはカルシウムの吸収率を高める力があるから、日光を浴びて牛乳を飲むと歯が丈夫になって背も伸びる」と書いてありました。

確かに、ビタミンDの代表的な効果としてはカルシウムの吸収促進で間違いないのですが、実は近年(2000年代以降)の研究では、ビタミンD不足が様々な体調不良と相関していることが分かってきています。

www.nature.com

私たちの心身のバランスは様々な栄養素の相互作用で成立しているため、ビタミンD不足が複数の疾患と複雑に絡み合っていること自体は特に驚くべきことではありません。この論文が警鐘を鳴らしているのは、現代人(特に北欧のような極地の人)が慢性的なビタミンD不足になっているという点です。

ビタミンDは、魚類や卵黄、キノコなどの食物にも含まれているものの、十分な量のビタミンDを食事のみから摂ることは難しいそうです*2。しかし、実は晴れた日に太陽光に20~30 分程度(日焼け止めなしで)当たるだけでも、私たちの肌では一日分のビタミンDが生成されるそうです。太陽の光はまさに「浴びる栄養」なんですね。

 

(2)セロトニン不足

太陽光が眼球を通って網膜に照射されると、電気信号が視神経を通って後頭葉の視覚野に知覚されるだけでなく、同様の電気信号が脳幹に数万個あるセロトニン神経を活性化させ、神経伝達物質の1つであるセロトニンの分泌を促してくれます。

セロトニンは主に人間の感情をコントロールするホルモンで、イライラや不安などの心のバランスを整える作用があります*3。また脳のシナプスで記憶を生成するための材料にもなるので、勉強や仕事の効率にも影響を与える重要な要素です。

そして、太陽光をトリガーとしてセロトニンが分泌されると、交感神経(興奮・活動を促す神経)が活性化します。つまり、朝カーテンを開けて日光を目にすると、脳内ではセロトニンが分泌されて交感神経にスイッチが切り替わり、眠気が解消されるのです。

しかし、太陽光を浴びずにいると、人間の脳は交感神経と副交感神経(沈静・休息を促す神経)とを切り替えるタイミングを失います。それに加えて、メラトニンという眠気を促すホルモンの分泌に影響が出てきます。

メラトニン朝日を浴びた約15時間後に分泌され、しかもセロトニンを材料として生成されるホルモンです。朝日を浴びないと、メラトニンを出すタイミングが分からなくなり、その材料となるセロトニンの分泌も抑制されてしまうので、夜に交感神経が高ぶったまま眠れなくなります。これが睡眠障害に繋がるわけです。

 

北欧の冬対策

ああ、世にも恐ろしい北欧の冬。この恐怖がご理解いただけたでしょうか。そして、たとえ日本であっても、北国に暮らしている人やカーテンを開けずに一日中家にいる人であれば容易にこういった状況が起こり得ます。つまり、日本人も他人事ではないんです。

そんな折、妻が近所のサウナでたまたま隣同士になったデンマーク人のおじさんから、こんな言葉をかけられたそうです。

「北の方のデンマーク人は、みんな冬になると毎朝ビタミンDの錠剤飲んでるよ。むしろ君は飲んでないの?」

なんということでしょう。目から鱗でした。マリー・アントワネット風に言えば「太陽が出ないならサプリメントを飲めばいいじゃない」です。私はさっそく薬局(Apotek)に行ってビタミンDの錠剤を購入し、毎朝夫婦で飲むことにしました。

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加えて、どうやら睡眠を促すメラトニンの分泌は朝日を浴びてから15時間後であり、夜に短い波長の光(PCやスマホブルーライト)を浴びると抑制されるようなので、朝起きたらしばらく窓の外を眺めて、夜はなるべくブルーライトを浴びないようにPCとスマホブルーライトカットモードにしました。

pupuru-blog.com

こうした簡単な対策により、ある時からよく眠れるようになりました*4。これらの対策は眠りが浅い方やフライトの時差ボケに悩む方にも効果的なので、ビタミンD摂取やブルーライトを浴びるタイミングをうまく計って身体のリズムを整えてみるのはいかがでしょうか。

 

以上、今回はなんだか散らかり倒した内容の記事でした。日本のニュースを見ていて紅白歌合戦の出場者が発表されたと知り、「ああもうそんな季節なんだ」としみじみ感じています。

稚文をお読みいただきありがとうございました。

*1:それしか取り柄がないと言っても過言ではありません。

*2:論文によると、特に高齢になるほど肌で生成可能なビタミンDが減少するため、高齢者のほとんどがビタミンD不足状態にあり、高齢女性の骨粗しょう症の原因になっているそうです。

*3:ただし、セロトニンは作用する脳部位によっては不安を増大させる効果を持つので、一部のエセ健康記事のようにセロトニン自体を「幸せホルモン」と呼んで幸せの象徴にするのは不正確です。

*4:眠れないときは「眠れないよ~眠りたいよ~」という思考がぐるぐる回ってしまうので、単に気の持ちようという説もあります。