5.生活基盤が整いました
――苦悩は活動への拍車である。そして活動の中にのみ我々は我々の生命を感じる。――
デンマーク生活の立ち上げについて
第5回の記事では、私がこの三週間くらい苦労した生活基盤の立ち上げについてまとめたいと思います。当然ながらデンマーク固有の話になるので、あまり他の外国に留学する方には役に立たないかもしれません。時系列順に紹介します。
ビザの発行
日本人の場合、パスポートさえあればほとんどの国に数か月程度の滞在(旅行)が可能ですが、1年間の滞在となると滞在・就労許可証、すなわちビザの発行が必要です*1。
ビザ取得の手続きは必ず出国の1~2ヵ月前くらいに動き出しましょう。書類提出から受け取りまでの手続き時間(Processing time)は、ビザの種類にも依りますが日本人の感覚よりずっと長くかかります。
手続きの場所ですが、アメリカやイギリスのような規模の大きい大使館の場合は、大使館のHPから予約してコンタクトすることになります。他方、デンマーク大使館は2018年頃から窓口業務を外部委託しているようです。古いネット情報では外部委託前の話をしていることがあるので、大使館にコンタクトをとらないように気を付けましょう。
上に貼ったリンクは在日デンマーク大使館がビザを取得したい人向けに公開しているHPです。この指示通り、まずはデンマーク国際人材統括局SIRI(The Danish Agency for International Recruitment and Integration)のHPから自分が取得したいビザの種類を選んでください。私の場合は「Guest Researcher」という項目に該当しました。
「Guest Researcher」の専用ページが表示されると、右端に「Normal processing time:1 month、Processing fee:DKK 3,025 - 」と書かれています。これが手続きにかかる平均的な期間と費用です*2。
「How to apply」タブをクリックして、まずは「Create case order ID」に氏名等を入力して申込者IDを発行し、「Pay the fee」から費用(3,025DKK)を支払いましょう。クレジットカード支払い可能ですが、後で使うので支払い証明のために画面をスクリーンショット等で保存しておくことをお勧めします。
「Pay the fee」の次のステップは「必要書類を用意してね」という説明があります。私は客員研究員ビザなので、受入れ先の大学のInvitation Letterや大学院の修了証明書等が求められています。
次のステップでは、いよいよビザの申込書を記入することになります。申込方法として、オンラインの方法とPDFやDOC形式の書類をダウンロードして紙で提出する方法が選べますが、絶対に手軽なオンラインを選ぶべきです。
デンマークは電子国家なので、あらゆる処理がオンラインで行われます。入国してからも手続きで電子化した書類をアップロードする可能性があるので、今のうちにパスポートの全ページやInvitation Letter等の情報をスキャナで電子化した方が良いからです。
AR1とAR6の違いは、受入れ先の大学に先に書いてもらうか、こちらで先に書くかの違いで、結局は両方が書かないとCompleteしません。
これで大方の申込み作業は終わりですが、デンマークでは2017年7月1日からビザ取得に指紋登録を義務付けています。実はこの指紋登録の場所も大使館ではなく、VFSという外部機関*3に委託されています。
以上の作業を終えると、後は所定の期間待っていれば自宅のポストに滞在・就労許可証(ビザ)が紙媒体で届きます。紙は例のごとくすぐにスキャナで取り込んで電子化しましょう。ビザはパスポートと同じで失くしたら命取りになります。
ちなみに、出国までに日がない場合はビザ無しで日本を発って、現地の住所に郵送してもらうという荒業もあります。しかし、当然そのためにはその時点で住所が決まっていなければならず、なかなかハードルが高いです。私はもしそうなったら大学の住所を指定してなんとかしようと思っていました。そうならなくて良かったです。
住民登録
さて、無事に出国前にビザも発行され、私がデンマークに来て一番最初に行ったのは、住民登録です。デンマークには、日本のマイナンバーに似た個人に紐づく登録番号「CPRナンバー」制度があります。発行に必要な書類は、パスポートとビザと住所証明(賃貸契約書)でした。
日本のマイナンバーとは違って、デンマークに3ヵ月以上滞在する外国人は、CPRナンバーの登録が必須とされています。現地で居を構えてから5日以内、または、ビザが発行されてから3ヵ月以内に、地元の市民サービス(Borgerservice:ボーワーサービス)を扱っている役所(Kommune:コミューン)を訪問しましょう。
デンマークの薬局(Apotek:アポティク)や役所等では、訪問者の順番待ち番号を発行する機械が設置されています。機械を操作してレシートを発行し、自分の番号が電子掲示板に表示されるまで待って、番号が表示されたら受付に向かうイメージです。
驚くべきことに、愛想の良さでもデンマークの市民サービスは日本並み、あるいは日本以上です。優しいスタッフさんが書類を出すたびに「Perfect!」と笑顔で受け取ってくれますし、最後は「It takes a few weeks until you recieve your CPR card and Yellow card. We apologize for your inconvenience.」と謝られ、「Enjoy your stay in denmark!」と手を振ってくれました。なんて人の良い国なんでしょうか。
ちなみに、最後にちらっと触れた「Yellow card」というのは、日本でいう健康保険証(実際黄色のカード)です。これがあると、第3回の記事でお話しした医療費無料の恩恵にあずかることができます*4。
交通系カードの発行
デンマークでは、日本でいうPASMOのような、バスや電車などの公共交通機関で支払いができる交通系カード、Rejsekort(ガイセコート)が普及しています。Rejsekortには、16歳以上の旅行者向けのRejsekort anonymt、家族で共用する方向けのRejekort flex、個人専用のRejsekort personligtの3種類があります。
最後のflexとpersonligt(personalの意)は、住民登録で手に入れたCPRナンバーを持っている人しか作れないのですが、最大30%近くの運賃割引が適用されて超お得です*5。
手続きには、最寄りのバスターミナルにあるRejsekortのお客様センターを訪問します。そこで、会員登録の書類とRejsekort personligtの申し込み書類との二部を記入し、提出します。CPRナンバーの証明書類を求められるので、登録時に役所でもらった書類かYellow cardを見せましょう。
Rejsekortには、専用HPからオンラインでチャージ(英語でTank-upと言います)できる仕組みがあり、銀行口座を紐づければ、残額が少なくなると自動でチャージされるように設定できます。私は家から大学までバスで移動しているので、Rejsekort無しでは生活できないくらいです。
ちなみに、バスや電車で乗るときには以下の青色ボタンみたいな機械にかざすだけです。バスの入口(Check ind)は運転手側、出口(Check ud)は後輪側です。入るときだけでなく出るときにもかざすのでご注意ください。
銀行口座を開く
銀行口座を開くのは、意外と大変です。私はデンマーク最大の銀行であるDanske Bankで口座を開きました。skeというのは英語のishやeseみたいなもので、日本人はデンマーク語でJapanskeとなります。つまり、Danske Bankはデンマーク銀行という意味です。
この国はオンライン申し込みが基本なので、まずは口座開設専用のページにアクセスします。私はHPからなかなかこのページが探せなくて苦労しました。
このページでアップロードが必要な書類としては、
(1)自筆でSignしてスキャナで取り込んだ申込書
(2)日本の銀行の残高証明書(英文)
(3)大学との契約書(教授のSign付きInvitation Letter)
(4)住所証明(賃貸契約書)
(5)パスポートの全文コピー
(6)携帯電話番号、メールアドレス、CPRナンバー
でした。特に(2)は結構厳しく見られました。私は職場から生活費や給料が拠出されるので、最初は(2)として財務証明書を会計部署からもらって提出したのですが、受理されませんでした。結局、三菱UFJの残高証明書を提出しました*6。
なお、Danske Bankは、不備があるとすぐに電話がかかってきて、何が受理できず、何を追加で提出すべきか丁寧に教えてくれます。加えて、その内容をメールでリマインドしてくれるので、手続きに困ることはありません。ただ、小出しにされる傾向があるので私は何度もやり取りしました。
以上の書類が正常に受理されると、あちらから契約書がPDFで送られてきます。それを印刷して自筆でSignし、指定された最寄りの銀行に紙媒体で持参します。後は自宅POSTに銀行のカード(私はMaster Cardのデビットカードでした)が届くのを待ちましょう。
Nem IDの発行
デンマークでは、インターネットバンキングやMobilePayという送金・決済システムが普及しており、オンラインサービスが充実しています。特に素晴らしいのは、デンマークでは日本のように銀行ごとにばらばらの形式でワンタイムパスワード認証をすることなく、国全体で統一されたオンライン本人認証システム「Nem ID」を採用している点です。
Nem IDとは、自分専用のパスワードカードです。上の画像のように、#という列と鍵マークの列が大量に並んだパスワード集になっています。何かのWebサイトで認証を行おうとすると、#の列にある4桁の番号が指定されるので、自分が持っているNem IDカードで鍵の列に書かれている6桁の暗証番号を入力することで、本人確認が行われる仕組みです。
CPRナンバーさえ持っていれば、住民登録を行った役所(Kommune)か口座を作った銀行にNem IDの発行をお願いすると、2、3日のうちに自宅に郵送してもらえます。
病院の予約からインターネットバンキングまで、あらゆるオンラインでの手続きがNem IDで本人確認されるため、日本のように大量のIDやパスワードを覚える必要がなく、非常に使い勝手が良い認証システムとなっています。
初回ログインの場合は、このself-serviceページからActivation(有効化)する必要があります。Activation Codeと呼ばれる仮パスワードは、役所にNem IDの発行を依頼したとき携帯電話にショートメールメッセージで送ってもらえるので、それを入力しましょう。一度ログインしたらIDとパスワードは自分の好きなものに変えることができます。
さて、無事Nem IDがActivateされたら、もう銀行のインターネットバンキングにログインが可能です。私はアプリで便利に送金や残高照会がしたかったので、追加で以下の作業を行いました。
Nem IDからNem IDアプリへの移行
Androidの方は、以下のページからNem IDアプリをインストールしましょう(デフォルトがデンマーク語ですが、アプリ内でEnglishモードに切り替えられるためGoogle翻訳で頑張ってログインしてください)。もちろんApple Storeにもあります。
アプリに移行すると、もはやNem IDカードは不要です。カードから暗証番号の列を探す必要もなく、スマホで指紋認証すればすべての本人確認が完了します。日本でもこの仕組みを国で統一的に運用できたらどんなにいいか…。
Danske Bankアプリの導入
日本のメガバンクと同じように、Danske Bankもアプリを開発しています。ただし、一度インターネットバンキングのHPからログイン用のパスワードを指定してやる必要があるので一手間必要です。
具体的には、スマートフォンからDanske BankのログインページにNem ID認証を行ってログインし、以下の黄色い枠で囲った「Mobile tjenester(Mobile services)」から、「Servicekode(Service Code)」をクリックすると、パスワードが表示されます。これを自分の好きな番号に変えましょう。
後は、以下のページからDanske Bankアプリをダウンロードし、ログインIDとしてCPRナンバー、パスワードとして先ほど変更した番号を入力すれば、今後はスマホから自由に送金や残高確認ができるようになります。
MobilePayアプリの導入
MobilePayは、2013年にDanske bank傘下のベンチャー企業が開発した個人間(P2P)送金サービスです。友達との割り勘での決済やピアノの先生への送金等、暮らしの中で必要な個人間送金を圧倒的手軽さで実現したアプリケーションです。
P2P送金サービスといえば、米国のApple payやPay Pal、中国のAli pay、日本ならPay PayやLINE Payが有名です。その中でも、MobilePayの国内普及率はデンマークの人口560万人中230万人以上であり、数多あるP2P送金サービスの最成功事例と言われています。
MobilePayの成功の秘訣としては、銀行口座とクレジットカード情報だけで登録でき、登録していない人の口座にも送金ができ、Danske Bank以外の口座でも使えて、送金手数料が無料、という点*7のようです。
使い方は簡単で、上のリンクからアプリをダウンロードして、口座番号とクレジットカードと携帯電話番号を登録するだけです。画面イメージは以下のようになります。
とりあえず誰かに100クローネ送りたい場合は、このように100とタイプします。そして、Nextで次の画面に遷移します。
Enter name or numberとは、送金相手の名前または電話番号を入力してください、という意味です。街の露店のような小さな商店でも簡単に導入できるため、ホットドッグを買いたいときなどにこれで支払えたりします。デザインもシンプルで洗練されており、確かにこれは流行ると思いました。
以上、今回はデンマーク留学を考えている人のための情報を一気にまとめてみました。かなり大変でしたが、自分としてもこの三週間を振り返る良い機会になりました。
稚文をお読みいただきありがとうございました。
*2:さすがは電子国家のデンマークと言うべきか、SIRIのHPは非常にわかりやすく手続きフローが説明されているので、英語さえ読めれば迷わずに手続きが可能になっています。
*3:VFSはデンマークだけでなくニュージーランドやカナダといった国の業務も委託されているようで、予約して訪問すると国ごとに振り分けられます。
*4:Yellow cardには自分の担当医となるホームドクターの病院が記載されています。何かあったときすぐ行けるように、受け取ったら場所を確認しておきましょう。
*5:ただし、いずれも購入時に発行手数料として80DKK程度払うので、旅行者向けのanonymt(anonymusの意)は長く滞在しないと元が取れないかもしれません。
*6:というのも、会計部署が発行してくれた財務証明書は、留学中の年収ではなく留学前年の年収を証明する書類だったからです。当然ながら、未来の給料を予測で記載などしてくれないので、会計部署には何の手落ちもありません。
*7:特に、登録していない人の口座に送金した場合は、お金を受け取る側は登録しないとお金を受け取れないので、ねずみ講のように顧客が増えていきます。他に競合するサービスがないというのも大きいでしょう。